1993年4月18日日曜日

<1993/4/18>



今日は、アテネからミコノスへの船旅。6:45にタクシーが迎えにくるというので、今日も急いで身支度をしてチェックアウト。ホテル一階のレストラン 「GB-Corner」で朝食。ブッフェスタイルになっていて、
  • パン
  • チーズ二種類
  • ヨーグルト(これがデカい、300cc近くあったりする)
  • ハム・サラミ各種
  • コーヒー
  • グレープフルーツジュース
を食べる。チーズはプロセス、ナチュラルのいずれもあるし、四種類の中から自分で好きな量だけ切って食べられる。HIROKOは、ヨーグルトの代わ りにシリアル。パンにクッキー。パンはゴマ風味で香ばしい。
満腹になってそろそろ行こうとするころに、ウエイターが寄ってきて「2400ドラクマです」と言う。ホテルの朝食だから宿泊料金に含まれているのか と思っていたら、どうも入っているのはコンチネンタルスタイルの朝食のみらしい。このへんの区切りはなんともしっかりしている。ま、そうはいっても 2400ドラクマというと約1200円。一人600円の朝ごはんと、やはり物価は安い。日本だったらモーニングサービスで、卵とトーストに、ミニサラダく らいのとこだから、これだけたっぷりとした朝食でこの価格なら満足としようか。まあミコノスから帰ったらまたこのホテルに泊まることだし、その時には チェックアウト前にとことん食べることにしようと算段してホテルを出る。
GB-cornerをでると、すでにタクシーが来ていてスーツケースを手にして我々を待っていた。「ちゃんとあたしたちのを覚えているんやねぇ」と HIROKOが感心している。
  • 6:50にホテル発
昨日と同じタクシーで、ピレウスの港へ。何隻かの船が停泊しているが、いずれも大きな船ばかりで豪華な気分になる。われわれの乗るのは「NAIAS -2」という船である。タクシーから荷物を降ろして船へ、六時間の船旅の始まりである。
船の急な階段をスーツケースをかかえてファーストクラスのキャビンへ。一等キャビンは二室でスモーキングとノンスモーキングに分かれている。8時出 航のところを7時すぎに到着しているので、キャビンにはまだ誰も来ていない。広々としたノンスモーキングの一角に荷物を広げて陣取る。ブルーを基調にした キャビンはエーゲ海のイメージなのだろう。なんだか、横におね~さんが座ってサービスでも始めそうな気分だ。
通路を挟んで向かいにあるスモーキングの一等キャビンには、日本人の家族連れが入ったようだ。よく見ると、昨日アテネのプラカ地区でスーツケースを 買っていた人々である。自分たちも含めて、相変わらず日本人観光客の多いことよと思う。
ノンスモーキングのキャビンには、われわれの他にご婦人が一人乗っているばかり。デッキに出てエーゲの風にあたり、写真撮影。風はなかなか冷たく、 日陰側のデッキにじっと立っているにはジャケットがかかせない。船が動きだした。NIFTY-Serve のロゴマーク入りブルゾンでカメラにおさまった。ちょっと曇り加減なのが残念だが、ピレウスの港を振り返ると後ろに小高い丘を従えたアテネの町並みが見え る。NAIAS-2 が静かに進む。
ミコノス島までは、シロス島、ティロス島を経て六時間の船旅である。
船室は一等、二等、三等と厳格に区別されており、特に一等キャビンに上がる階段にはロープが張ってあって、いちいちチケットを見せなければならな い。十人ちょっとしか乗っていない一等客なんだから「一度顔を見たら覚えておけよ」と思うのだが、彼らから見ると日本人の顔はどれも同じに見えるのだろう か。この船内にも、イースターの飾りとおぼしきものがあちこちにぶら下がっている。
10時。雲も晴れて、キャビンから見える海はいかにもエーゲ海らしく、深く碧い。その青さも「青」ではなく、まさに紺碧の「碧」をあてて「あおい」 とフリガナを振ってしまいたい気分になる。
エーゲ海はヨーロッパとアフリカに囲まれて、地図で見た感じでは瀬戸内海の親分というところだが、なんといっても広さが違う。青い海に白い波頭が見 え、船がゆらぁり、ふらぁりと揺れる。紀勢本線で特急「くろしお」がカーブを通過するときの気分のようだ。いまごろになって酔い止めの薬を飲んでみたりす る。薬が効くまでは三十分程度か、それまで眠って船酔いをやりすごすことにしよう。
12時ちょうどに汽笛が鳴った。シロス島到着だ。いままでキャビンにひきこもっていたいた乗客がいっせいに駆けだして、エーゲ海に浮かぶシロスの島 を写真に撮ろうとしている。ずっとキャビンで横になっていたHIROKOも、カメラをもって駆けだした。ミコノスのような真っ白の壁というわけではないの だが、寄り添って立ち並ぶ石作りの壁の家々が、地中海の海の紺碧に映えて、まさに観光パンフレットのイメージ通り。岸壁に近づく船のスクリューが海水をあ わだて、紺碧の海と白い泡との間の水をブルーグリーンに見せる。
島の僧侶なのだろうか、ローブのゆったりとした黒い服と帽子を身につけ、豊かな髭姿で悠然とのりこんできた。なかなか立派な姿なのだが、一緒に乗っ てきた女性陣に頼まれて飲み物を買いにいってしまうところなどは、女性に優しいというか、たんなるアッシー君というか、である。
シロス島の姿を見ようと駆けだしていったおばさん達が、たったいま出てきたキャビンへの帰り方がわからず「部屋どっちですか」とたずねてくる。「お いおいおばちゃん、私ゃあんたの添乗員やないんやでぇ」と心中に舌打ちをしつつ、にっこり笑って「あちらじゃないんですか」と応える。「あら、向き変わっ たんやわぁ」の一言をもうひとりと交わしながら、おばはんは「すんません」も「ありがとう」も言わずに去っていった。思わず、エーゲ海の藻屑にしてやろう かという思いが頭をかすめる。しかし、ギリシャは一週間遅れのイースターである。殺生は控えることにしようと思いなおす。
相変わらず船はゆらゆらと揺れながら進む。昼飯どきではあるのだが、まともに食事をする気分にはなれない。「帰りは飛行機で正解やねぇ」と HIROKO、同感である。バナナビスケットとミネラルウォーターを買って、おやつ代わり。ちゃんとした昼食は、ミコノス島に着いてからにすることとしよ う。
  • 13:00 ティノス島到着
「WELCOME TO TINOS」の文字が岸壁に見える。丘の上の教会、港に浮かぶヨット、「ミコノスハーバー」の絵のイメージにだいぶ近づいてきた。ミコノスまで途中に寄る 島はシロス、ティロスの二つだけ、いよいよマックナイトの描いた島ミコノスに迫る。
エーゲ 海クルーズというと船旅を楽しむという印象だが、船が走っている時には一面が「海と空」だけ。島の近くにくれば景色も楽しめるが、島と島の間ではただひた すら「うみ~~っ!」と「そらぁ~~っ!」だけの景色である。
最初は「ほおら、エーゲ海よお」っと感動したものだが、何時間も続くとさすがに飽きてくるものだ。世界一周のクルージングツアーなどは、いったいど れだけのイベントを企画しているのだろうかと余計な心配をしてしまう。
ちょっとお手洗い、と言って出ていったHIROKOがなかなか帰ってこない。なにやら「そお~ぉなんですかあ」というHIROKOの声が聞こえたよ うな気がしたが、こっちはうとうとと居眠り中。同じ船の中だし花嫁が逃げる心配もないので、引き続き惰眠をむさぼることにする。
しばらくして戻ってきたHIROKOが言うには、向かいのキャビンの日本人の団体さんが、なんと和歌山からのツアー客。それもHIROKOと同じ紀 伊田辺市在住、ライオンズクラブの10周年パーティーで一緒になったことがあるそうな。
「田辺?、湊?」
「はぁい」
「名前は?」
「久保ですけどぉ」(このあたり、まだ新木の姓に慣れていない・・・・・・・ )
「新庄の?」
「へぇ?、は、はあい」
「ほな、こっちおいでやあ。みんな田辺やねん、旦那さんも呼んであげぇ」
ということで、さっきの不躾なおばはんの旦那さんがライオンズクラブの会員で、HIROKOのお父さんとは顔見知り。やはり、ライオンズクラブの十 周年パーティーに旦那さんといっしょに出席していたそうな。
「あん時、建築屋の奥さんがえらいビール飲んではったでしょお」
「あぁ、そおそお」
かくして、田辺市民の町内会的井戸端会議が盛り上がるうちに、船はミコノスに到着。船内放送でミコノス到着の知らせがあったのだが、添乗員まかせの 彼らにはどこ吹く風。ついには、たまりかねたパーサーに「ミコノ~ス!」と急かされるまで、下船の支度をしようとはしなかったのだった。「海の藻屑」とい う言葉が再度頭の片隅をよぎった、午後二時のことである。
ホテル「イリオ・マリス」は港からほど近い。事前にもらったコピーに載っている写真はプールサイドに鉢植えの置かれた素敵なデザインだったが、実物 はどんなものだろうかと楽しみにしながら、砂ぼこり舞う道をゆられて行く。お出迎えのワゴンで坂道を走ることものの五分少々、イリオ・マリス着。
どの家も白をベースに、青や赤で窓や扉を塗っているのがこの島の景観だが、このホテルも例外ではない。真っ白でまぶしいくらいの壁に、真っ青なドア と窓。年に三回はペンキを塗りなおすだけのことはある。島中の家はこのペンキの塗り替えを義務づけられているそうで、観光地として地中海のイメージをそこ なわないための努力をかかさない。部屋から港が見えにくいのがちょっと難点だが、リゾートムードはまずまずである。
部屋に荷物を置いて、まずは昼食。船の中ではとうてい食事などという気分ではなかったので、島の散策の途中でどこかのレストランに立ち寄ることに決 める。街中は道がとても入り組んでいて迷路のようだ。地図もあるのだが、細かい道がいっぱいあるのでいちいち地図を見て道を確認するよりも、だいたい海の 方向、だいたい山の方向、という感覚で歩いた方がいいかもしれない。とにかく港の方に下れば繁華街なのだから。
それにしても風と陽射しがとても強い。また、その強い陽射しが真っ白な壁に反射するものだから、まぶしくてしかたない。瞳の色の濃いアジア人種はま だしも、欧米人にはサングラスなしではたまらないだろう。
港の方にあるいくつかのレストランの中から、適当に選んで遅い昼食。港町なのでシーフードにしてみる。タコのオリーブオイル漬け、シーフードピザ、 シーフードのフライ。お酒はギリシャの地酒ウゾ、水と混ぜると白濁するのがおもしろいが、HIROKOの味覚には合わなかった。たしかに独特のくさみが あって、私も好んで飲む酒ではない。
ウゾを除けば、料理は素材が新鮮でおいしい。ほんの目とはなの先の港で取れたものを料理するのだから、余計な小細工をせずに食べればうまいに決まっ ている。ギリシャというとオリーブオイルを大量にかけるんじゃないかと心配していたが、わりとあっさりと仕上がっている。海に囲まれた国に暮らす日本人と は味覚があうのかもしれない。
白い壁にかわいい看板の店が並び、どの路地も絶好の被写体になる。今日のところは船旅で疲れていることもあって、二時間ばかりの散策でホテルに引き 上げ。本格的な島の散策は明日からだ。

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